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檀家のいない「みんなのお寺 見性院」

〜一般常識的な視点から改革を行った『庶民のためのお寺』の現状と未来〜

曹洞宗見性院 橋本英樹

目次

「みんなのお寺 見性院」。ホームページを見ると、一番に目に飛び込んでくるのがこのキャッチコピーだ。見性院は400年以上の歴史を持つ曹洞宗のお寺である。

23代目にあたる橋本英樹(はしもと えいじゅ)は、「昔ながらのやり方では、これから立ちいかなくなる」と自ら改革に名乗りを上げ、2012年6月に『檀家制度廃止』。宗教宗派・住所・国籍を問わない「みんなのお寺」として寺院を運営している。

翌、2013年4月には宗派を超えた僧侶の会『善友会』を発足。宗派を問わない僧侶グループを形成、メンバーの僧侶を葬儀や法事の場に派遣する事業も行っている。

―昔ながらのやり方では、これから立ちいかなくなるー

ネットが普及し、消費者が情報を握り、あらゆるサービスが透明化される時代。地縁・血縁・信仰心が薄まりつつある世の中。

時代が変わったと気づいた時、その流れを見極め動き出す者と、動かずその場に固着する者がいるだろう。橋本はいち早く時代の流れをキャッチし、ニーズに応えられるよう改革に邁進した僧侶だともいえる。

出る杭は打たれる時代に、一石を投じ改革を起こすことで厳しい声も浴びる一方、人望も厚く未来のお寺について真摯に取り組んでいる橋本英樹。

「お寺をグループホームのような居住地にしたい。このお寺に来て救われたと思ってもらう『お寺の病院』になりたいですね。」

そう穏やかに語る彼は、どのような僧侶なのだろうか。

庶民感覚を持った庶民のお寺「みんなのお寺 見性院」

「見性院のいいところは、ここに集まる人がみんなで切磋琢磨して同じ方向を向いていることです。」

見性院では、お坊さんもスタッフも一般市民も、お互いが尊敬し謙遜し、同じ志を持っている。

「来るものは拒まず去るものは追わず」困っている人にみんなで手を差し伸べる駆込み寺。それが今の見性院だ。

今このお寺では、終活相談をする人が増えたという。生前戒名を授けて欲しいという人もいるという。生きているうちに戒名を貰うことで、自分の葬式をする住職との信頼関係を築いておきたいという願いからだ。

今後は、親元を離れて暮らす子供が、自分の親への終活相談をお寺に相談するケースも増えるだろう。「子供の心配をケアするため、お寺にグループホームを作って、お寺が家族の故郷になるようにしたい」そう語る橋本はグループホームについて更に語ってくれた。

「これから核家族化やおひとりさま世代も増えるでしょう。そんな方々にとってもお寺をグループホームのような居住地にしたいですね。リタイア後に僧侶になってもいいし、お寺の事務を手伝ってもいい。

お風呂やジムなど共同施設を利用し、お寺で仕事やボランティアをするんです。僧侶でなくても自然と本堂に集まり仏教的な生活が送れる「みんなのお寺」にしたいですね。」

吐き出すと諦(あきら)めがつく〜坐禅会後の朝粥会での風景とは?

見性院では毎週、坐禅会後に朝粥会を行なっている。そこでは今週の出来事を参加者に聞いているという。すると参加者は吐き出すように話してくれる。

「坐禅をしたら無になると言われますが、うちのお寺では坐禅をして洗い流すという感覚の方が近いですね」

そう語る橋本だが、『洗い流す』とは一体どういう意味だろうか?

道元の言葉で「生を明らめ死を明らむるは、仏家一大事の因縁なり。生死(しょうじ)の中に仏あれば生死なし」とある。

これは、生き方と死に方を時に分けること。生き方とは明日はどうなるか分からない身なので死を案じても仕方なく、いま死んでも後悔をしない生き方をすること。

どう死ぬかは、これまで自分と携わってくれたあらゆる人たちに感謝して死んでいくこと。

坐禅をして、これまでのことを綺麗さっぱりと洗い流す死生観を持つことで、自分らしい生き方が出来ると橋本は語る。

坐禅を行うと、自分に執着せず自分を忘れて人に尽くすことに集中する力が身につくのだ。

「今の時代は人生の目的を見失っている人が多い。特に責任感が強い人、仕事ができる人ほど鬱になる傾向がありますよね。

そんな人に言いたいのは『自分を追い込むことはない。それがすべてじゃない』ということです。

自分と他人はひとつと考えるべきなんです。自分をよくするためには人のために仕事をし、目先の利益を追うべきではない。因果を信じれば必ず返ってくるんです。」

そう語る橋本は、お寺が『檀家制度』で市民を縛らず、自分の意思で、多くの選択肢の中から自由に選ぶ時代になったと静かに語ってくれた。

生き残れるお寺にしたい!『檀家制度廃止』に至った背景

42歳で住職となった橋本だが、5年前から当時住職だった父親と『檀家制度廃止』について話し合っていたと言う。

一般社会では当たり前の「同業他社を意識すること」がお寺にはない。これから一般社会と寺院との間にあるつながりが続くことはなくなるのではないかと感じていた。

実際橋本が住職になった時、葬儀をしても檀家にならないだけでなく、葬儀をしない遺族も出てきたので、お寺が衰退していくのではないかと感じた。

「新しくお寺に来てくれる人を増やさなければ」という危機感を感じたという。

釈迦の時代から僧侶は生産活動に携わらず、何も生み出さないのが理想だったが、これからのお寺は違う。

一般社会と同じように、住職が経営学を学び、一般教養を学び、僧侶と経営者としての両輪が必要だ。また、外に出て他の寺を見て学ぶことも大事なのだ。

しかし現状は、「うちのお寺は大丈夫」と言う僧侶が多い。昔ながらのやり方ではこれから立ちいかなくなるのは普通に考えてわかるのに、今の僧侶は動かない。

長く大学院と米国で仏教を学ばせてもらった。その後、父を亡くしたことで明日の自分に何が起こるかわからないと危機感を持った橋本は、「自分は社会に恩返ししなくてはいけない」と信念が確立したと言う。

そんな信念を元に、お寺の現状にメスを入れた。

「仏教は生きた人のためのもの」終活や生活仏教、医療や保険などまで学びあえる場所

これからお寺が担うべきサービスは、葬式仏教ではなく『ゆりかごから墓場まで』相互的な終活として、生きている人に向けての終活や生活仏教だ。

 本堂では禅や習字だけでなく、医療や保険なども学びあえる小さな学校のような施設を作っていきたい。

墓を買うから檀家になるのではなく、お寺の理念や活動に共感して一緒に集まるお寺にしたい。そう語る橋本にインタビュアーはこう尋ねた。

―明るいお寺にしたいですよねー

「そう!そうなんです!」

そう強く返してくれた橋本は、これからのお寺について語ってくれた。

「このお寺に来て救われたと思ってもらう「お寺の病院」になりたいですね。これからの時代、宗派の教養で人が集うお寺ではなく、本山の方針より、小さなコミュニティで成り立つお寺です。

これまでのシステムをリセットし、お寺を支援する活動をしたり、自分自身が心から寄付したいと思うお寺を創造していきたいです。その時に選ばれるのが見性院でありたいし、他のお寺にもモデルとして見せていきたいですね。」

―インタビュアーの目線―

―前代未聞の改革を起こした僧侶―

事前に仕入れた情報ではそんな印象を持っていました。

しかし橋本さんのお話を聞くにつれ、『現代日本の状況を常識的な視点で考え、確固たる態度を持って運営されている住職』と見方が変わりました。

『特別な改革者』ではなく、一般的な視点を持っているからこそ、お寺の現状に危機感を感じる。その結果として、当然するべき対策を行っているのです。

歴史ある従来からの仕組みや制度を変えるのは難しい事ですが、宗教宗派・住所・国籍を問わない「みんなのお寺」として今もなお、改革に邁進中の橋本住職。今後も益々のご活躍が期待されます。

プロフィール

橋本 英樹(はしもと えいじゅ)53才

埼玉県熊谷市/曹洞宗万吉山「見性院」住職

1965年/埼玉県熊谷市で誕生

駒澤大学大学院修了

曹洞宗の大本山・永平寺で3年間修行

1995年(25歳)で見性院の副住職となる

2006年(42歳)で父親の跡を継ぎ住職となる

***

2012年6月『檀家制度廃止』宗教宗派・住所・国籍を問わない「みんなのお寺」として寺院を運営

2013年4月『善友会』を発足

テレビ、雑誌、新聞・週刊誌などメディアに多数出演

見性院 http://www.kenshouin.com/