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福岡県豊前市にある「賢明寺(けんみょうじ)」。この豊前の街の情報を、地域住民を巻き込み発信するウェブマガジン「ローカルWebメディアぶぜんらいふ。」の編集長を務めるのが大江英崇。

もともと滋賀県草津市にあるお寺の長男として生まれたが、現在は奥さんである香子さんの実家、賢明寺の副住職をしている。

ウェブマガジンの作成だけでなく、奥さんと協力しながら、さまざまな新しい取り組みに奮闘している大江。彼は、どのような僧侶なのだろうか。

「浄土真宗のお寺の伝統と理想が、豊前にはあるのかもしれない」自分自身を成長させてくれる賢明寺との出会い

滋賀県草津市のお寺の長男として生まれた大江は、京都の龍谷大学で4年間仏教について勉強し得度した。その大学のサークルで出会い、大学4年生のときに交際を始めた相手が、奥さんの大江香子さんだ。

大学卒業後、2人は浄土真宗本願寺派の僧侶を養う専門学校、中央仏教学院へ進む。学校の仲間と仏教論議などを行ったことで、大江は改めて、浄土真宗やお寺の魅力にはまっていったという。

中央仏教学院で共に学んだ仲間たちには九州出身者が多く、せっかくだからと夏休みに九州一周旅行をしたこともある。とはいえ学生の身、宿はそれぞれの実家であるお寺に泊まらせてもらうことになった。

九州の北から南まで車でぐるりと一周して分かったのは、ところ変わればいろいろな文化やお寺があるということ。はじめてじっくりと人のお寺を見る機会にもなり、非常に勉強になった。

その際に現在、副住職を務める賢明寺にも立ち寄った。はじめて見た賢明寺の本堂はとても大きく、立派に感じたという。その本堂の広さに、どれくらいのご門徒さんがお参りされるのだろうかと、わくわくもした。

さらに、豊前という地は浄土真宗を知るものにとって特別な場所でもある。

「豊前門徒」として浄土真宗が盛んで信仰心が篤い地として知られているのだ。さすが豊前の賢明寺。もっとこのお寺のことを知りたいと思った。

その後、結婚する前に賢明寺に何度か伺うことがあった。お客としてもてなしていただいて楽しく夕食をとるのだが、住職たちと話をしていると、会話が自然と仏教の話になることが多かったという。それは、今まであまり経験したことがなく、非常に新鮮でありがたいことだった。

また同時に、そういった感性を育てる風土が、豊前の地にはあるのだと思った。現地で感じたのは、イメージ通り仏法の清らかな水が流れる様子だった。

さらに住職に詳しい話を伺うと、「豊前では法事も丁寧に務めるし、法座もきちんとする」とのこと。浄土真宗のお寺の伝統と理想が、豊前にはあるのかもしれないと感じた。この環境に身を置けば、自分自身も成長できるに違いない。そう思ったのが、賢明寺へやって来た理由の一つである。

結婚式をした際に大江を賢明寺の門徒に紹介する門徒披露会があり、賢明寺の門徒さんには快く受け入れてもらえたという。結婚してすぐ、同じ地域の宗派組織である上毛(こうげ)組に、各寺の長女の婿養子として2人のお坊さんが入って来た。同じ立場の人ができたことも心強かった。

また、「賢明寺」では、月命日に檀家を訪れ短いお経をあげる「月参り」も行っている。地図を持って回るので町の様子や家を覚えることができる上、お参り後に檀家さんと話すことで方言も覚えられた。九州には美味しいものもたくさんあり、この土地に慣れるのに長くはかからなかったという。

地域の人を巻き込む新しい取り組みに挑戦「お寺のイメージ改革」

豊前市では、地域の人口が減少していることに加え、若い人に仏事が身近でなくなったこともあり、参拝者が減っていた。賢明寺を継ぐことになった大江は、このまま檀家がどんどん減ってしまえば、お寺がなくなってしまうのではないかという強い危機感を覚えたという。

「もちろん伝統的なことは守らなければいけないけれど、もっとこうしたほうがいいんじゃないか、って感じる部分も多いんです。仏様の教えや人とのつながりは今までどおり大事しつつ、『お寺は楽しいところ』というイメージをつけたいですね」

そこで、お寺のイメージをもっと明るくすべく、地域の人を巻き込んだ新しい取り組みを行うことにした。

最初に始めたのは、お経の練習をする「お経の会」。また、月に1回子供たちに向けて、日曜学校も開催するようになった。日曜学校では、お経を唱えて法話をした後、ゲームをしたりお菓子を食べたりする。ブルーベリー狩りや芋掘り、バーベキューを境内ですることもあり、門徒さん以外の地域の親子も参加しているという。

イベントを開催する際は、ビラを配ったり、Facebookやインスタで告知を出したりしているのだそう。「賢明寺がこんなことをしてるぞ」という認識は少しずつ地域の人たちに浸透していき、だんだんつながりができていった。今では協力してくれる人も増え、違うお寺の檀家がイベントを手伝ってくれることもあるのだとか。

「よく、『他のお寺に参っていいのか』と聞かれるんです。 檀家意識に強く縛られている現状は、打破したいですね。ただ、今の若い世代にはそういった概念があまりなく、輪を広げていけるチャンスだとも思っています」

お釈迦さまの誕生日を祝う行事「花祭り」では、境内でマルシェ(市場)やコンサートを開催し、子供向けのゲームをした。企画・運営はすべて自分たちだ。結果、多くの人が訪れ、お寺の可能性を確信。「できることがもっとあるんじゃないか」と、さらにいろいろなチャレンジに乗り出していくことになる。

お坊さんと対話するイベント「お坊さんとしゃべらナイト」は、保育園にも張り紙をさせてもらったところ、ママさんたちが参加してくれた。それまで全く接点のなかったママさんたちだったが、その日は同じ上毛組の若手僧侶が5人も来てくれ、みんなでご飯を食べながら話をした。ママさんたちは、それから周りの人を誘ってイベントに参加してくれるようになったという。

日曜学校や各種イベントによって、地域の人に、自然とお寺に寄ってもらう機会が増えたのは事実だ。ただ本末転倒にならないよう、お寺としてやっているということは忘れないようにしているそう。イベントや教室は、あくまでも入り口。地域の人の需要にマッチしうまくつながりができてきたので、その絆をどう生かし、展開していくのかが今後の課題だ。

お寺をベビーマッサージ教室と撮影スタジオに。「気軽に来ていい場所」だと思って欲しい

地域とお寺のために奮闘しているのは、大江だけではない。奥さんの香子さんは2010年に長女を出産した際、ベビーマッサージに出会い、そのまま資格を取得。2013年にはお寺で「ベビーマッサージ教室 紬~つむぎ~」を始めた。

また、楽しそうな親子の様子を写真に残したいという気持ちが生まれ、2015年からは賢明寺をスタジオに、家族や赤ちゃんの写真撮影も行っている。現在はそこから派生して、カメラ教室まで開催しているという。

元々こういった会を開くのは苦手だったという香子さん。試行錯誤しながら地域のお母さんたちとのつながりを作り続けてきた結果、5〜6年かけてそれがようやく実を結び始めている。

現在は、写真を撮ってもらえるから賢明寺で七五三をしてほしい、という家族までおり、今では月の半分ほどをベビーフォトグラファーとしての仕事に費やしているほどだ。

ベビーマッサージ教室は1組2,000円、写真は10枚で5,000円。一見良心的な価格にも思えるが、お寺生まれの香子さんには商売っ気がなく、当初はお金をもらうことに抵抗があったという。

とはいえ、赤字になっては教室も撮影も続けられない。適正な価格をもらって自分の勉強代に回せば、さらにサービスの質が上がる、質が上がればお客さんもより喜んでくれる、と考えを改め、現在の価格に設定することを決意した。

正直今は、需要がどんどんどんどん増えており、値上げも可能かもしれない。しかし、「家族の写真を残してほしい」「気軽に写真を撮りに来てもらいたい」という思いで始めたことなので、5,000円という最低ラインは変えないと決めているのだそう。

「こういうきっかけで『お寺って気軽に来ていいんだ』って思ってくれたら、いいご縁になっていく可能性があると思うんです」

香子さんは地域のお母さんたちと連絡が取りやすいよう、LINE@も導入している。イベントを開催すると告知すれば、「行きます!」と返してくれる人もいるそう。

自分自身は、お寺で生まれ育ち、お寺に楽しかった思い出がある。それを他の人にも体験してもらいたいというのが、こうして新しい取り組みをやっていく原動力にもなっているのだ。

今後は地域の人との縁を深めながら、新しい仕組み作りへ

賢明寺に来て10年、大江は、地域の人との距離が近くなってきたと実感している。来年には住職継職も決まっており、これからは地域の人との縁を深めながら、新しい仕組みも作っていきたいという。

たとえば、檀家制度に依存するお寺の在り方も考えていかなければいけない。現在のままでは今の若い世代にとって、維持費や寄付金が負担になってしまうのではないかと懸念しているのだ。

制度自体を変えるのではなく、お寺自体で収入を確保し、なるべく檀家に負担をかけないようにしていければと考えている。

また、檀家やお寺を必要としてくれている人のニーズにも、きちんと向き合っていきたいという。月参りの機会だけでなく、新しくやってきた人でも1対1で丁寧に対話ができる仕組みを作るつもりだ。

賢明寺の魅力は伝統と革新。しっかりとした法話が聞けるなど、伝統の部分で安定したレベルを保っているからこそ、新しいことにチャレンジしていくことができている。基本的な伝統は大事にしつつ、今から作っていく新しい形が「お寺」と呼ばれるようになることを目指していくつもりだ。

「お寺はみんなが自然に立ち寄れる場所です。ふらっと訪れた人も、一緒にお話をして、ぜひお茶でも飲んでいってください」

輪の一員になって、一緒にお寺や地域を盛り上げてくれるような人にも来てほしいという。というのも、大江はこの10年、新しくやってきた人と地域のハブとして、役割を果たしてきた実感があるからだ。大江の関わったコミュニティに入り、そこからまた別のイベントや事業に参画していく人が多かった。

「これはうちのキャッチコピーでもあるんですけど、『お寺は人と心のよりどころ』。人がいろんな考えを育んでいく場所でもあるので、ぜひつながりを持ちに来てもらえたら嬉しいです」

―インタビュアーの目線―

WEBマガジンを作ったり数々のイベントを実施したり、お寺のイメージを楽しいものに変えるべく、並ならぬ労力をかけて新しいチャレンジを続けている大江さん。

現状に危機感を覚えていても、実際にここまで行動に移せる企画力・実行力の持ち主はそういないはずです。大江さんご夫妻の、お寺や浄土真宗のよさを伝えたいという気持ち、地域の人のことを思う気持ちの強さが表れているのだと感じました。

来年は住職継職も控えているとのことで、今後益々、ご夫婦で協力して、賢明寺をより魅力的なお寺にされていくことでしょう。

プロフィール

大江 英崇(おおえ ひでたか) 36

福岡県豊前市/浄土真宗本願寺派 賢明寺副住職

「ローカルWebメディアぶぜんらいふ。」編集長

1983年 滋賀県草津市生まれ  

2004年 龍谷大学卒業

2009年 龍谷大学の同級生である妻・香子の実家である賢明寺へ入寺。

お寺内外での主催イベントを企画・運営しながら、若い人が定期的にお寺に来る仕組みの紹介や、編集長を務める『ローカルWebメディアぶぜんらいふ。』を運営する。

「寺院活性×地域活性=人々の安心」「人と心のよりどころ」となるようなお寺づくりを目指し、日々法務に励んでいる。

賢明寺 https://kenmyouji.com/