メニュー 閉じる

「大丈夫だよ 生きていけるよ」

寺院の門前にある、掲示板に貼られたポスターの法語だ。

先代の時代から、周りの人たちの心を打つ言葉だと評判だったのだが、古くなったのを機に一度張り替えたことがある。しかし、檀家から「あの言葉が好きなんです」「自分が肯定されている感じがする」と言われ、また戻したという。

この法語は「輝け!お寺の掲示板大賞2018」で、中外日報賞を受賞。

以下のような講評も頂いている。

お寺の門の前を、さまざまな人が通ります。生きてゆくのが辛く、苦しい気持ちを抱えた人がこの言葉と出会ったら、「大丈夫だよ」と、背中を押された気持ちになり、前へ進む勇気が湧いてくる。そんな言葉です。

引用元:公益財団法人仏教伝道協会「輝け!お寺の掲示板大賞2018   

掲示板に貼られた、ちょっとしたポスターも周りは見てくれている。

また、一昨年からお寺の軒先に植えたハスの花を見て周りが声をかけてくれたり、秋になるザクロやカリンを軒先においておくと、2時間ほどで周りが持って帰ってくれる。

そんな出来事から「周りは意外とお寺のことを見てくれているんだ」と感じたという。そんな、周りの声に耳を傾け、目を配る住職が、今回紹介する正徳寺の平松理薫(ひらまつ りくん)だ。

彼は、どのような僧侶なのだろうか?

居場所があることが楽しい「主人公はお寺に来る人」

「その人にとって居場所があることって大切なことなんですよね。それが楽しいということなのだと思います。」

居場所とは、与えられるばかりではない。まずは慣れること、そしてアクションを起こすことだという。

そのような場所を作るためには、まずこちらが「受け入れる」ことが大切だと語ってくれた。

そうやって作られた場所は「居ていい場所」になり、それが「居場所」になる。そこからコミュニケーションが生まれ、楽しい場になるのだという。

「場所がお寺であっても、主人公は住職ではなく寺に来る人なんですよね。そして受け入れることが大切なんです。ただ座っているだけではなく、お坊さんから声をかけてあげたり、周りと話す場を設定してあげるのが住職の役割だと思っています。」

お寺に来てもらうための「声明会」や囲碁会、墨絵会

正徳寺では、「今を生きる知恵」を伝えるため、「声明会」を開催しているという。声明会では自宅でもお参りができるよう、お経の意味や漢字の意味や音の伸ばし方まで学ぶ。

始まりは「身内に不幸があって、自宅でもお経を唱えたい」という、たった一人の声から始まった。何度か繰り返すうちに「一人だと気詰まりがあるね」という話になり、そこから周りの人を呼び、開けるようになったという。それからもう、10年も続いている。

「10年も継続するって、大変ではないですか」という質問に、平松はこう答えた。

「こっちが楽しいんですよね。そして勉強にもなります。オープンにしたことで、門徒さんだけでなくインターネットからも来るんです。それがすごく嬉しいし、そういった人にとっても、お経は響くものがあるのだろうなと思っています」

正徳寺では声明会の他にも、子供向けの囲碁会や親子で「墨絵」も体験できる会を開催している。

子供を対象にしていることで、子育て世代、おじいちゃんおばあちゃんなど三世代に渡ってお寺に来てくれるようになる。「とにかく入ってみる」という経験ができ、それがお寺での楽しい思い出として記憶に残っていくのだろう。

説法ではなく聞くことを重視「住職の聞く活動」とは

昔から正徳寺では、僧侶が説法をせず、法要後はお茶をする文化がある。これを座談といい、近況を聞いたり、質問に答えたり。”聞く”ことを重視している。

説法よりも、周りの声にしっかりと耳を傾けているという。

平松も関わっている、日本文化を体験する寺社フェス「向源(こうげん)」というイベントは、日本の伝統文化を体験できるイベントがメインだ。中でも人気なのは「お坊さんと話そう」ブースなのだという。

みんなお坊さんに話を聞いて欲しいと思っているのだ。

お説法だけではなく、「聞く」ことは、お坊さんにとっても、相手にとっても必要とし、されていることなのだろう。

時代がお寺を開いてくれた「お寺に来る人が作る楽しいお寺」とは

正徳寺では檀家以外にも仏教を発信するため、前述した催しを開催したり、年に一度、年末に落語会を行なっている。

通信手段が発達した現代において、コミュニケーションの取りやすいネットも活用しているという。

そして、近所の人たちにも積極的に声かけを行なっている。

「こちらから挨拶をすることで返してくれるし、それを繰り返すうちに人間関係ができていくんですよね」

正徳寺では、人が集まるよう改革を進めたわけではなく、土地柄、時代に応じてお寺に周りが反応してくれたという。

最後に、これからのお寺について聞いてみた。

「楽しいお寺を目指したいですね。何をしていきたいというより、人に会っていきたいですし、そのための居場所を作っていきたいと思います」

―インタビュアーの目線―

自然体な住職。そんな言葉の似合う平松さんのお話の中には、「聞く」という言葉や「楽しいお寺」という言葉が多くみられました。

平松さんは門前にある掲示板のポスターのように、「自らを肯定してくれる存在」。そんなお坊さんなのだろうと感じます。

檀家さん以外にも「居場所」を作ることでお寺に人がやってきて、お寺にやってきた人たちが楽しいお寺を作ってくれる。正徳寺はそんな温かいお寺です。

「お寺の主人公は、住職ではなくお寺に来る人なんですよ」

そう話してくれた平松さんのお人柄に、これからも多くの人たちが癒され勇気付けられることでしょう。今後ますますご活躍を期待しています。

 

プロフィール

平松 理薫(ひらまつ りくん) 43

東京都品川区/真宗大谷派 日夜山正徳寺住職

主な活動
・正徳寺声明会(しょうみょうかい)

・こども囲碁道場

・こども すみえ おえかき道場

・「対話する夜」 月一回 都内のいろいろなお寺で平日夜にお坊さんを交えて対話する会

この他、寺社フェス「向源」や「代官山ノエル」にて「お坊さんと話そう」に参加するなど 

正徳寺  http://shoutokuji.tokyo/