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【 法華宗孝勝寺】上川 泰憲

法華宗孝勝寺 上川 泰憲 かみかわ たいけん

平和活動から学んだ「心理的に安全なお寺」

 北海道当別町にある孝勝寺。その副住職であり、海外での平和活動の知見をいかして地域づくりを進めているのが、今回話を聞いた上川泰憲(かみかわ たいけん)だ。

一見、海外での平和活動と地域寺院は関係がないように思えるが、上川が地域活動に取り組むうえで大切にしていることは、その平和活動から得たものだという。

「結局、人と関わり合うことが問題を解決するためには重要で、お寺はその基礎となる心理的安全性が保たれているんです。人が安心して集まれることが、あらゆる問題を解決してくれると海外の活動で学びました」と、お寺の持つ場所の力と仏教に対する信頼が鍵だと話す上川。彼とはいったいどんな僧侶なのだろうか。

仏教に対する希望が見えた学生時代

 孝勝寺の長男として生まれた上川は、幼い頃からお寺の跡を継ぐことを周りから期待されていたそうだが、上川自身はなぜお寺が長く続いているのかを不思議に思っていたそうだ。

 ある日、高齢の檀家がお寺に御仏供米(おぶくまい。仏様にお供えする米)を持ってきてくれた。子供の頃の上川は受け取った御仏供米袋をご本尊にお供えする役割だったが、お寺にお供えしに来てくれている人たちのおかげでお寺はあるのだと気付いた。

仏様を信じ、喜んでお米を届けてくれた人の笑顔を見て、僧侶になることを決めたという。

 上川は宗門校である立正大学に進学した。お寺のなかにある学生寮に下宿し、毎朝4時前に起床し5時から始まる朝勤(ちょうごん。毎朝の読経)の準備をするなど、入学したばかりの頃は身体的に辛い日が続いた。

それでも全国各地から集まった学生仲間とそれぞれの地域の話を聞くのが楽しくて、時にはこれからのお寺は存在していけるのかという問題を話し合ったこともあった。なかには地方のお寺はこれからは難しいと見切ったような仲間もいたという。

「地方だからお寺は潰れるという安易な考えを持つ仲間がいることに絶望しました。地方から移住した人がみんな都心のお寺に移りお付き合いしているとは思えなかったからです」と、問題意識の違いに驚いた。

 ある日、上川より年上の学生と仏教学の授業で出会った。お寺の生まれではない彼は、自ら出家して僧侶になったのだが、仏教の基礎知識や学問的知見が広く、仲間のなかでも一目置かれる存在だったという。その人こそノーベル平和賞にもっとも近い日本人と言われる井本勝幸である。

同じ学生寮に住んでいた2人はたまたま飲みに行くことになった。そこで上川は人生が変わるストーリーを聞くことになる。

 井本は東京の大学を卒業後、国際ボランティア組織で活動していた。戦争が起きた国で援助活動をしていたのだが、戦争で破壊された街をボランティアが復旧したところで、戦争が終わらなければまた壊されてしまう。それでは根本的な解決にならないと考えた井本は、戦争を止めるための平和活動ができないかと考えた。

そこに必要なのは仏教だと感じ、僧侶になったというのだ。「日本の僧侶に絶望しかけていた自分にとって、井本さんの話は希望のように感じました」。井本は海外に戻って仏教を平和活動にいかす準備をし、上川はいつか井本の活動に協力すると約束を交わし、北海道に戻った。

それから10年後、井本から連絡がくる。「上川さん、準備が整ったので手伝ってくれませんか?カンボジアに来てほしいんです」。

途上国で見えた利他の精神

 井本との10年越しの約束を果たすためカンボジアに渡った上川は、法華経を唱えながら街を行進する『妙法の行進』を平和活動の一環として現地の僧侶と共に実施した。

外国から来た僧侶がお経を唱えて行進するという異様な雰囲気を感じたが、仏教国のカンボジアではすぐに受け入れられたという。

「現地の人は村のお寺に着いた私たちに深々と頭を下げ、迎え入れてくれました」と、村の人々は僧侶である上川を信用してくれたのだ。そして、あるボランティア活動を通じて僧侶でもできる平和活動の可能性を学ぶことになる。

「仏陀バンク」という小規模融資のプロジェクトで、日本からの寄付を現地の融資希望者に寺院を通じて融資する事業だ。

海外からの融資は国の規制が厳しいはずだが、寺院への寄付活動としてなら手続きがたやすくなる。その準備をカンボジアの宗教省や大臣と交渉し整えてくれたのが井本だったのだ。

また、その融資事業そのものが仏教の精神に基づいたシステムだった。通常、融資では返済利子を運用し利益を増やそうとするが、運用を失敗するケースもある。しかし、仏陀バンクでは資産運用せず、その村の寺院に集まる人にしか融資することしかしないので、返済した人の利子は寺院を通じて村に還元されることになる。その村では仏教による利他の精神が根付いた経済活動が行われていたのだ。

「村では藤かごを編む技術を持つ村民が素材を買うために高利貸しからお金を借り、それを売って返済に回す自転車操業をしていました。透明性の高い仏陀バンクなら安心して融資を受けることができ、利益を返済利子と生活費に回すことができます。お寺に返済しにきた人から仏陀バンクのおかげで自立できたとお聞きし、喜んで帰って行かれました。仏教を信じた人たちが集まることで自然と恩を回す場の雰囲気がありました」。

上川が各地の村に訪れたとき、僧侶姿の上川に村の子どもたちが警戒することなく自然と集まってきてくれたそうだ。

仏教を信じる人たちとの信頼関係が人に安心を与えていると感じた経験だったという。

心理的に安全なお寺でできるアクション

 その後、仏陀バンクの運営組織の代表になった上川は、バングラデシュでも仏陀バンクを展開した。

バングラデシュは仏教徒が少数のため、仏陀バンクを運営することは困難かと思われた。しかし、現地で活動を支える仏教徒たちのおかげもあり、国内6ヶ所で開始した事業を5年で60ヶ所まで増やすことができた。

最初は人が少なくても仏教を信じる人が集まれば事業が成り立つことを証明できたことが、のちの地域活動へといかされることになる。

 その後、代表を後任に託した上川は、夕張市にあった孝勝寺本院を移転するための事業に専念し、いまは孝勝寺が当別町に根付くためのお寺づくりに取り組んでいる。孝勝寺はこの町のために何ができるのか。

それを考えた時、上川はカンボジアでのある出来事を思い出した。ボランティア活動をする日本人に対して現地の人が何を求めているのかを尋ねたことがあった。彼らは現地の声を多くの人に届けて、現状の課題を知ってほしいというのだ。

物資を支援することだけがすべてではないことを現地の人から学んだ上川は、物が豊かな日本だからこそ抱える課題は個人でそれぞれ違うと感じ、まずはお寺にみんなで集まって話すことができないかと考えた。

海外で法華経の行進を地域と共にしたように、孝勝寺ではお寺の空間で心と身体を見つめ直すことができる2泊3日の『断食リトリート』を開催している。そこでは修行体験を通じ、参加者同士が地域課題を話し合っているそうだ。参加者も増え、いまでは隔月で定期的に実施しているという。

 上川にこれから目指すお寺のイメージを聞いた。

「楽しいお寺づくりをしたいですね。これまでのお寺は仏法を説くことで人が集まっていましたが、これからのお寺は地域の人と一緒に話し合う場に変わると思います。

孝勝寺が当別町で取り組んでいるように、地域の人とお寺を一緒に作っていく感覚に近いと思います。お寺が本来持っている心理的に安全な場所であるというメリットをいかし人々が安心して集うことで、地域の問題意識を共有することも、個人の問題を話し合うこともできる。人を信じ、支え合う利他の精神があれば、人は安心して話し合うことができると思います」。

地域の共通課題から生まれる仲間意識が、これまでの檀家制度とは違ったお寺づくりの鍵になるかもしれない。

法華宗孝勝寺

北海道石狩郡当別町太美町16

JR学園都市線 石狩太美駅下車 徒歩10分

ご案内

孝勝寺ホームページ

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孝勝寺・上川泰憲副住職パンフレット

孝勝寺・上川泰憲副住職パンフレット

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