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NHK大河ドラマ「おんなの城主 直虎」で禅宗指導をした僧侶がいる。

「大河ドラマの禅宗指導をした時、伝えることの難しさ、大変さを学びました。もっと僧侶も努力して伝える活動をするべきだと思います。」

そう語るのが、今回ご紹介する細川晋輔(ほそかわ しんすけ)だ。

龍雲寺では毎週日曜日に坐禅会をやっているのだが、今は80人超える時もあり、新しい人が入りきらないので初回のみ予約制を取っている。

他にも、地域のために盆踊りや餅つきなど、地域住民が参加しやすい行事を行っているという。

「地域の方々には、“野沢龍雲寺”と呼ばれて親しまれています。地名を頭につけて頂けるのは、地域の方々との結びつきを強く感じられますので、自分にとっても嬉しいことなんです。」

地域との結びつきを大切にしながらも、謙虚であること、敷居を高くあり続けることを心がけている細川。

「お寺では、非日常の空間を作っていきたいですね。『なんか、龍雲寺に行けば清々しい気持ちになれる』と言われるようなお寺を目指しています。」

そう静かに語る彼は、どのような活動をし、経歴を持つ僧侶なのだろうか?

NHK大河ドラマの禅宗指導で感じた「伝える」ということ

細川は修行後、NHK大河ドラマ「おんなの城主 直虎」で禅宗指導を行っていた。

撮影では、プロのテレビ局スタッフの努力を目の当たりにしたという。脚本の良さを伝えるために、100人ほどのスタッフが寝る間も惜しんで一つの番組に集中している。

「現場にいると、スタッフや役者さんたちの“伝える・伝えたい”という思いがすごいんです。伝えるということは大変なことなんだということ、伝えることの難しさを学びました」

そう語る細川は、僧侶ももっと色々な経験を積み努力して、伝える活動をすべきだと実感したという。

 

地域のためのお寺「野沢龍雲寺」での活動〜敷居は高くあり続けること

毎週日曜日、朝6:30〜、龍雲寺では坐禅会を行っている。

これは、先代の住職が40年間休まずに続けてきたことなので外せない活動だ。先代のおかげもあり、今では参禅者が80人を超える時もある。

さらに龍雲寺では、盆踊りや餅つきなど、地域住民が参加しやすい行事も積極的に行っている。盆踊りの練習などのために本堂に上がってもらうこともあるという。

「地域の方々には“野沢龍雲寺”と、地名を頭につけ、親しみをもって呼んで頂いています。地域の方々を大事にしたいと思っていますし、坐禅会や行事はこれからも続けていきたい活動です。」

そう語る細川だが、心がけていることがあるという。

それは、『謙虚であることと、敷居を高くあり続けること』だ。

住職だからといって、来てくれた人たちに上から目線でものを言うことはしないが、敷居は常に高くあり続けたいと語る。

「お寺では、非日常の空間を作っていきたいんです。お寺も図書館と同じで、休息しに行く人はいなくて、来てくれた方々によって品位が保たれている部分があります。

来てくれる人にとって“入りやすいお寺“というよりは、”お寺に行くと引き締まった気持ちになれる“そう思ってもらいたいと思っています。」

お寺、坐禅は句読点を打てる場所

龍雲寺には様々な人がやってくる。

悩みを持つ人も多いという。そんな人たちに細川は、「答えは自分が出すことだ」と伝えている。

悩みを解決するのではなく、本人が答えを出すのに、そっと背中を押すような一言をかけてあげたいのだという。

そうすることで、『人生に句読点を打ってほしい』と願っている。

―人生に句読点を打つ? どういうことですか? 詳しく教えてくださいー

思わず前のめりになって聞いてしまうほど、興味深い例えだ。

「句読点って、いくら並べても意味のないものですよね。だけど、文章に句読点がないと読みにくい。句読点があることで、文章が引き締まって見えます。

一見すると無意味に思える坐禅も、一旦リセットするような気持ちで句読点を打つことによって、人生がより引き締まってきます。」

いつも何かとしんどい人は、10分でもいいので静かに呼吸を数えることで、1日に句読点をつけるといい。

そこで、明日は新しい自分にリセットするのだという。

兄への劣等感〜9年の修行で見えてきたこと

細川は、龍雲寺の次男として生まれた。

2つ上の長男は開成高校、東大へと進学し教育者を目指した。細川は兄とは対照的とも言えるが、受験に失敗。

当時は深く考えていなかったのだが、兄への劣等感、親の期待に応えられないことと認めてもらいたいという気持ちから、佛教大学に進んだのではないかと振り返った。

細川は、9年もの修行から気づきがあったと語る。

「通常は3〜5年で終える修行ですが、同期が突然亡くなったことで、彼を弔うにはどうすれば良いのかと修行に集中できなくなりました。

そんな時、禅語の『知恩報恩』を知りました。彼も含めて周りの全てからいただいた恩を知り、それを報いるのは修行に専念することだと思い、坐禅をし、一つでも多くの禅問答をやり切りたくて9年もの月日が流れました」

そのような日々を過ごしてみると日本には四季があり、美しい情景があることに気づいた。当たり前のことに、心底「ありがたい」と思えるようになったという。

「本当に何もかもが新鮮で、スニーカーって、こんなに履きやすいんだ!笑」という気づきまであったとか。

これからの活動〜「野沢にお寺があってよかった!」

細川は、今後も変わらず禅僧として禅の縁から出ることはなく、できるだけ多くの人に禅の良さを伝えていきたいという。

仲間の死に苦しんでいた自分も禅に救われたように、いつか死ぬ人生だからこそ、今を大切にいきてほしい。

そのためにも地域にはお寺があるので、地域住民をお寺が受け入れ支えてあげれば、日本はもっと良くなると思う。そう語る彼は、最後にこんなことを話してくれた。

「地域住民から『野沢にお寺があってよかった!』と思ってもらえるようなお寺作りが目標です。そのためにも野沢に、地に足つけて頑張りたいと思います。

誰でも立ち寄れるお寺だけど、一歩中に入ると気持ちが引き締まるような、そんなお寺を目指しています。

人が沢山くることによって、玄関は毎朝掃除をしているけれど、夕方になると汚れているようなお寺でありたいなと思いますね」

―インタビュアーの目線―

NHK大河ドラマで禅宗指導をされた時「伝えることの難しさ」を心底学んだという細川さんですが、インタビューでも、こちらに伝わるよう『句読点』に例えてのお話など、分かりやすく語られていたのが印象的でした。

そんな細川さんはインタビュー中、「周りの環境を変えることは難しい。ただ、自分の気持ちを少し変えるだけで、その環境は嫌ではなくなり、豊かになれる」と語っておられました。

地域住民から愛され必要とされている龍雲寺ですが、細川さんの『周りを受け入れようとする姿勢』が周囲に伝わり、“野沢龍雲寺”と親しみをもって呼ばれているのではないかと感じました。

伝えることの難しさを知りながらも、『伝える』活動を続ける細川さん。今後、益々のご活躍を期待しております!

プロフィール

細川 晋輔(ほそかわ しんすけ)  39才

東京都世田谷区/臨済宗妙心寺派 大澤山龍雲寺住職

臨済宗妙心寺派東京禅センター 副センター長

1979年 東京都世田谷区生まれ

佛教大学人文学部仏教学科卒業後、京都にある妙心寺専門道場にて9年間禅修行。現在、龍雲寺住職。花園大学大学院文学研究科仏教学専攻修士課程修了。妙心寺派布教師。

著書:

「禅入門 禅僧から学ぶこころ・修行・歴史」(2019年)

「迷いが消える禅のひとこと」(2018年)

「人生に信念はいらない」(2018年)

龍雲寺 http://ryuun-ji.or.jp  

東京禅センター https://www.myoshinji.or.jp/tokyo-zen-center