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【 曹洞宗宝持寺】馬場 俊行

曹洞宗宝持寺 馬場 俊行 ばば しゅんぎょう

お寺には地域をつなぐ役割がある

「宝持寺は檀家とのつながりが強いお寺なので、自分がそれを引き継いでいきたい」

埼玉県鴻巣市に一千年以上の歴史を持つ宝持寺はある。その副住職が今回話を聞いた馬場俊行(ばば しゅんぎょう)だ。

彼の宝持寺での仕事内容は壇務(葬式や法事)と末寺との連絡係。一見、物静かな口調で話す馬場だが、これまで支えてくれた檀家のことについては熱く語ってくれた。

2025年には宝持寺を建立した平安時代の武将・渡辺綱の没後1000年忌祭があり、それに向けて地域とともにどう取り組むかを檀家総代(檀家の役員)と毎月打ち合わせをしているそうだ。

「お寺のことをお寺だけで決めない。それが宝持寺らしさ」と話す馬場はいったいどんな僧侶なのだろうか。

宝持寺の偉大さを知るきっかけ

馬場は宝持寺の長男として生まれ育った。小さい頃から自分がお寺を継ぐことを周りから期待されていたというが、僧侶になることへの抵抗も、お寺を継ぐことへのプレッシャーもあまり感じたことはなかったそうだ。

「子どもの頃から友達がうちのお寺に来て遊んでいました。それが嫌ではなかったですし、遊び場があることをみんなが喜んでくれたので、この寺を受け継いでいくことを自然と受け入れていました」

小さい頃は宝持寺の法要に参加するくらいで、特に厳しく仏教を教えられたことはなかったという。そんななか、馬場が10歳のときに当時住職だった祖父が亡くなった。馬場はその葬儀の規模に驚いたという。

「近くの住職だけでなく、遠方からも多くの僧侶の方々がお越しになり、なにより地域の方々がたくさん葬儀に参列されました。子どもながらに宝持寺はすごいお寺なんだと実感しました」

祖父を偲び、宝持寺を慕ってくれる人が数多くいることを知った馬場。そこから馬場は自分の進むべき道を意識し始める。

檀家総代が初めての棚経に付き添ってくれた

馬場は14歳で得度式(出家して僧侶になるための儀式)を受けた。得度は早く受けた方がいいと母が勧め、馬場はそれを反発することなく受け入れた。

「得度式では多くの僧侶の方に参加いただきました。将来は自分が住職をやっていくんだなという実感がわきました」という馬場は、そこから僧侶として仏事を学び実務をすることになる。

高校生になったばかりの夏、馬場は棚経(たなぎょう。お盆に檀家の自宅で行う法事)をすることになる。父から棚経でまわる近隣の檀家15軒を指定されたが、馬場は僧侶としてひとりで読経を行うことが初めてだったため、果たして自分がうまくやれるのか不安で仕方がなかった。

そんななか、檀家総代の方が棚経に行く檀家のところまで同行してくれた。その方は祖父と変わらない年齢だったが、暑いなか馬場と1軒ずつ一緒にまわってくれて、棚経中も外でずっと馬場を待ってくれたという。

「まだ袈裟(僧侶の法衣)も着なれていないくらいだったので、恥ずかしがり屋の自分と一緒にまわってくれたのは本当に心強かった」と、この出来事をいまでもはっきりと覚えているという。

その総代の方はもう亡くなってしまったが、息子さんが宝持寺の檀家総代を継いでくれている。馬場はその檀家総代と一緒に、1000年忌祭の実行計画を取り組んでいる。

檀家総代は父と変わらない年齢なので、世代がまたがった馬場のことを檀家みんなで可愛がってくれているのだ。檀家総代から当時の思い出話が出るたびに、馬場はあらためて宝持寺はいろんな世代の方々から支えられていると実感するという。

小さな取り組みを実践し、伝えていくこと

宝持寺の宗派である曹洞宗は寺院を統括するための本末制度があり、各地域の寺院には本寺と末寺がある。鴻巣では本寺である宝持寺が9ヶ寺ほどの末寺を束ねており、馬場は末寺との連絡係を担っている。

宝持寺は昔から末寺の方々と活動を一緒に取り組む習慣があり、信頼関係のもとお寺同士でお互いに助け合う文化が自然と成り立っている。しかし、視点を変えてみると、新しいことへ取り組むには周囲の理解を得るための時間が少しかかるという面もあった。

そこで馬場はまずは宝持寺が自分たちで出来る取り組みを実践してみた。ホームページを立ち上げ、お寺の行事をレポートとして公開している。また、檀家以外にもお寺を開放するために本堂でヨガ教室を毎週実施している。馬場はまず宝持寺が取り組んでいる目的や、その結果や効果検証を末寺の方々へ伝え、いい取り組みであれば実施してほしいと考えている。

「これまで地域に慣れ親しまれてきたお寺こそ、もっとお寺のことを知ってもらうためにすべきことがあると考えていました。例えば、宝持寺の場所は地域の方なら誰でもご存知かもしれませんが、果たして本当にそうかはわかりません。宝持寺は大通りから少し入ったところにあるので、知らない人からすればどこにあるかがわかりにくい。

そこで大通りに宝持寺の看板を掲示しました。すると、しばらくお寺に来ていなかった檀家からお寺までの道がわかりやすくなったと聞かせていただきました。小さな取り組みのひとつでしたが、相手がお寺をどう見ているかが重要だと気付きました」と、自ら実践したからこそわかる人の反応を伝えていきたいと馬場は話してくれた。

お寺のことをあらためて知ってもらう取り組み

馬場は宝持寺の特長のひとつとして、檀家とのつながりが強いことを挙げた。行事や地域イベントをお寺でやれば檀家が手伝ってくれる。また、檀家が家族と一緒にお寺に来る文化があるので自然と檀家の後継者やその家族と挨拶する機会もあるという。

しかし、2020年に入り新型コロナウイルス感染症の影響で宝持寺でも行事やイベントが開催できなくなった。檀家がお寺に来たいと思っていても行事で住職に会う機会がなくなり、なかには法事さえ申し込みにくいと感じた檀家もいたという。こんなときこそお寺が檀家のために何かできることはないかと考えた馬場は、あらためて檀家にお寺のことを紹介する案内を送った。

例えば、宝持寺では法事を本堂だけでなく、コンパクトな位牌堂でも行っていた。これまで少人数で法事をしたい人のために位牌堂をご案内していたが、それをあらためて檀家の皆さんに知ってもらえば、こんな状況でも法事をしやすくなるのではないかと考えたのだ。すると、それを知らなかった檀家から法事の依頼があったという。

「宝持寺のことをよく知ってくれている檀家さんにこそ、法事の意味合いやお寺の活動の目的を説明していく必要があります。宝持寺の檀家はそれを知っていても、そのご家族や分家の方は詳しく知らないかもしれません。鴻巣は昔から親が子どもを連れてお寺に行く文化があります。その子どもが大人になってお寺に来てくれたときに、昔と変わらずお寺から取り組みを説明してあげることが大切です。

また、遠慮しがちな檀家も増えてきたので、これからはお寺から積極的にお寺のなかのことを伝えていこうと思います。どんな檀家さんがお寺に来て、住職とどんなことを話しているかを紹介しています。時代とともに檀家さん同士でお寺に集まることが少なくなったからこそ、私が檀家さんとお寺とのつながりを伝えてあげたいと思います」

お寺は地域をつなぐ役割

渡辺綱の没後1000年忌祭事業では馬場が檀家や地域をつなぐ役割をしている。

「宝持寺が中心となって取り組む事業ですが、住職が檀家総代の意見を尊重しながら進めています。そして、地域の歴史に残るイベントとして他宗派の各寺院様や神社の方々も呼びかけ、一緒に鴻巣を盛り上げていこうとしています。

檀家や他寺の住職、宮司さんなどこれまでにない顔ぶれを見ていると、父が住職になってから立ち上げた縁日を思い出し、鴻巣は地域総出で助け合う文化があるんだなと感じます。家族を大切にし、故郷を愛する文化が根付く鴻巣で、お寺が地域のためにできることはまだまだあると思います」と話す馬場。

2025年に実施する1000年忌祭ではあらためて地域愛が深まるような取り組みを期待したい。

曹洞宗宝持寺

埼玉県鴻巣市箕田2034

JR高崎線「北鴻巣」駅下車 徒歩13分

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宝持寺ホームページ

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