お寺の信頼と安定を生かして。行政や民間企業だけではできない「まちづくり」
2010年の末からまちづくりに携わる活動も増えてきた。
寺の場を開放し、ランチ会や魚の販売なども行っている。妙海寺がこういった活動に力を入れているのは、地域の人々のためだ。
というのも、勝浦の、特に妙海寺のある町では、人口の減少が進んでいる。
若者世代が仕事を求めて町の外へ転出してしまうので、妙海寺の檀家さんも3割が地域外にいるような状況だ。
人がいなくなって寺だけが残ることなどあり得ないので、持続可能なまちづくりを行わなければ、妙海寺というお寺は必要なくなってしまう。
佐々木は、「地域のため、檀家のため、お寺のため。すべてが重なる活動こそ、寺の場でやるべきだ」と語る。
妙海寺では今まで「まちづくり」のための様々な取り組みをしてきたが、初めのうちは、従来のお寺らしくない姿に冷ややかな反応もあったという。
しかし、地域のためという姿勢を貫いて繰り返していくうちに「そういう意味があったんだね」と、少しずつ理解し、後押ししてくれる人が増えていった。
過疎地域のお寺だったが、逆にそういうお寺だからこそ、人の役に立つことであれば何でもできたのだろう。
これは行政や民間企業にはない強みだ。長年築いてきたお寺の信頼と安心の上で活動を行えるというのは、大きなメリットである。
こうして妙海寺は今、人が来るお寺になった。
相談が地域の内外から寄せられ、佐々木も「こうしたらいいんじゃないか」「ここに行けば実行できるよ」と、具体的な案を出して応えている。
最初にやってきた相談事は「フェスをしたい」というものだったという。地域の物産を販売するフードコートや雑貨の出店を考えているが、市の会場では水が出せず、物販も不可能。
「野外ライブを幾度も行っている佐々木なら、きっといい開催場所を知っているに違いない」と、町の若者たちが相談にきたのだった。
そこで佐々木は、お寺で年に1回開催しているお祭りと共催して、お寺を会場にフェスを行なってはどうかと提案した。
保健所の届け出はお寺側である程度一緒に行えるし、人が集まってくれれば妙海寺としても嬉しい。
檀家のためだけに従事しているお寺は、いまの時代に成り立たなくなるのではないかと危機感を感じる佐々木。まず地域のために寺の場を開放し、お寺に集まるひとの関心を引き出すことを主に取り組んでいる。
こうして妙海寺は、地域の「やりたい」を叶える場所として、頼りにされるようになったのだった。
人が集まる今の妙海寺は、いろいろな人とつながるコミュニティの機能も果たしている。