いまの人に合った仏教の価値
いまのひとに仏教が伝わるようにするにはどうすればいいのかを池口に尋ねた。
「仏教もそうだが、人は見ようとしなければ素通りしてしまう。まずお寺を一般の人の視界に入れさせることだ。
お寺には文化やいろんなものが詰まっているものなので、意識し始めると人は見逃すともったいないと感じ、ハマるきっかけになるのだ。
アイドルオタクが法話を求めたり、経本や数珠を自分から購入するなど、いつのまにか仏教にハマるのが典型例だ。」
仏教をすぐにわかる人はいない。仏教イベントで一般の人がゆるく仏教をわかった気になっても、その入り口から引き込むことがなかなかできなかった。
しかし、龍岸寺での活動は一般の人が仏教について入り口から1歩2歩先に進んで、仏教を極めようと思う人が出てきているのが面白い現象だ。
池口にこれからの取り組みについて聞いてみた。
「仏教の価値を再構築したい。
日本では鎌倉新仏教の頃の教えをベースに、江戸時代の檀家制度のもとで仏教が展開された。それを本来は明治時代以降に作り直さないといけなかった。近代以前と以降とでは人の考え方は違う。
それを踏まえたうえで、日々革新を続けていけば、仏教が再び時代をリードする日は来ると思う。」
近代以前なら人は死んだら極楽浄土に行けるという物語を、素直に信じられただろう。現在は、神話的な話をそのまま受け入れていく時代ではない。
仏教の教えの捉え方の転換をやっていかないから、僧侶が発するひとつひとつの言葉がいまの人に響いてこないのだ。
仏教の価値を再構築するとはどういうことなのか。最後に池口はこう答えた。
「『自我の世界から無我の世界へ』。自分中心の世界を捨てて、世界の中に自分がいると捉え直していく、それが2500年からの仏教の思想にある中核だろう。
それを伝えていくのがお寺であるなら住職のためのお寺ではなく、多くの人たちの拠り所であるお寺であるべきだ。」