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『ペットのお寺さん』と呼ばれる感応寺。

感応寺は400年あまりの歴史があり、境内には家族と共に過ごしてきたペットを埋葬する『動物供養塔』のあるお寺だ。

住職を務める成田淳教(なりた じゅんきょう)は、イエ(家)より個と向き合うことを大切にしている。

「寺を大切にするお檀家さんと、故人を供養したい一般の人とは、そもそも寺に求めるものが違うんです。

ペット供養や水子供養などインターネットの検索だけで来た『檀家』ではない一般市民に対しても、悲しみを抱えて寺を訪れた人の、心を癒す手助けをしたいと思っています。」

そう語る彼は、東京教区の委員として「寺院紹介システム(仮)」の開発にも携わっている。

地元の菩提寺に帰省できない都内の檀家に対し、東京教区のシステムを通じて東京の寺院で法要できるよう、現状の課題を克服するための仕組みを作っているのだ。

「日本は確実に人口が減少しているのに、寺がこれまで通りでは通用しないんです。人のために寺はある。人が減るのに寺の数や布施の金額が昔から変わらないのはおかしいですよね。」

そう穏やかに語る彼は、いったいどのような僧侶なのだろうか?

ゼロからのスタート〜感応寺が支持され続ける理由

感応寺の住職になったばかりの頃、檀家はゼロ。まさにゼロからのスタートだ。感応寺は建物はあったものの運営的には廃寺と言ってもおかしくない状態だったという。

しかし成田は、妻と共に寺の運営を再構築することを心に決めた。

運営できる状態にする為、まず最初にHPを立ち上げ、その中のコンテンツとしてペット供養や水子供養や祈願についても発信した。

するとすぐに供養の依頼が来た。最初は月に1〜2件だったのが、次第に4〜5件と増えていき、今ではペット供養や水子供養で法要の件数も増え、檀家数は150戸になったという。

ゼロの状態から、感応寺単体で経営できるようになったのだ。

2017年には、ペットと一緒に入れる永代供養塔を建立。時代のニーズに合わせた供養方法は、ペットを慈しむ人々の心に寄り添うものとして支持され続けている。

「感応寺の住職になってしばらくした後、一人の小学生が感応寺にやってきたんです。大切な金魚が亡くなってしまい、供養をしてほしいのだと。『お布施です』と言って、自分のお小遣いらしき小銭を渡してくれました。」

成田は「一緒に供養しようね」と法要をしたが、これまで宗派や寺院で育った成田にとって、一般市民から認められたと感じた瞬間だと語る。

『檀家』と『一般市民』との違い〜イエ(家)より個と向き合うお寺

感応寺に来る人は、インターネットの検索だけで来る人も多い。

ペットや水子供養など、その故人を供養したい人がメインなので、寺とのしがらみが無い人が来る。

成田はこれまでの、寺が付き合う『檀家』と『一般市民』との違いに気づいたという。来る人の雰囲気が違うのだ。

実家の寺でいうと、檀家は家での付き合いで何百年と付き合いがあり、歴史的に寺を大切にし、思ってくれている。しかし、感応寺に来る人はインターネットの検索だけできた人だ。

ベースの関係性が一切ない状態で来た人とは、背負っているものも意識も違う。

そこで、僧侶の慣例的な布施や慣習に対して、市民とのズレがあることを実感したという。

感応寺では、インターネットで検索して来た、『檀家』ではない一般市民に対しても、悲しみを抱えて寺を訪れた人の心を癒す手助けを行なっている。

イエより個と向き合う寺なのだ。

お坊さんになると決めた理由〜抱えていたコンプレックスとは

成田は、感応寺の近くにある大吉寺の長男として生まれた。

なぜ大吉寺の長男として生まれたのにも関わらず、感応寺の住職になったのだろうか?成田に聞いてみた。

「特に感応寺に来た理由というのはないんです。大吉寺の近くにあった感応寺の住職が後継者不在のまま遷化され、跡を近所の大吉寺に頼まれた為、父が大吉寺に住みながら感応寺の住職をしていたんです。

平成13年に、大吉寺の住職であった祖父が浄土宗大本山のひとつ、増上寺(東京都港区)の法主になり、父が大吉寺の住職に、そして私は感応寺の住職になりました。

エスカレーター式というか、スライドする形で感応寺の住職となったという感じです。」

そう語る彼は、自分は文才も運動神経もなくコンプレックスの塊だったと語った。

「祖父は、浄土宗宗務総長や増上寺の法主まで務めた直木賞作家で、父はカヌーの元オリンピック選手なんです。今も大吉寺の住職を務めながら、日本カヌー連盟の会長を務めています。」

そんな経歴を持つ祖父と父は世間的にも有名人で、テレビで祖父や父を見て『寺に行って住職に会いたい』というより『寺で住職に会えればラッキーだ』と喜ぶ檀家もいたほどだったという。

成田自身は反抗期には「寺なんか継がない」と父親に反抗し理想論を語ったのだが、父親は「綺麗事だけではやってられない」と突っぱねたという。

「そんな父に対し『お坊さんこそ綺麗事言わなきゃダメだろう!それだったら俺がお坊さんになる!』というような感じでお坊さんになりましたね。」

それからは、浄土宗で一番厳しいと言われる修行道場に入り、僧侶としてひたすら修行をした。修行時代は喉から血が出るほど読経した。

(参考)

祖父・成田有恒:増上寺第87代法主/寺内大吉という名前で直木賞受賞

父:成田昌憲:日本カヌー連盟会長

現在の活動〜地域と東京の寺院をつなぐシステムと仕組み作り

成田はこれまで、

・浄土宗東京教区青年会会長

・関東ブロック浄土宗青年会理事長

・全国浄土宗青年会理事長

・全日本仏教青年会副理事長

など幅広く仏教の組織に関わってきた。

「どうしてもなりたかったという訳ではないんです。ただ、当時は基本的に人から言われたことは断らないスタンスでいましたので、割と自然な流れでさせて頂いたというのが実情です。」

寺院紹介システムに関わる委員としての活動とはどういうものなのだろうか?

成田は今、東京に移住した浄土宗の檀家のために、全国寺院と東京教区の寺院とで協働する「寺院紹介システム(仮)」の開発に携わっている。

地元の菩提寺に帰省できない都内の檀家に対して、東京教区のシステムを通じて東京の寺院で法要できるようにするシステムだ。

そのシステムは、

1:依頼する都内の檀家(施主)が地元の菩提寺に登録

2:都内で法要してほしい日程や希望の布施金額(お金以外の場合も含む)を入力

3:都合の合う都内寺院が菩提寺の代わりに、その法要を勤める

4:法要後、法要を行った寺院が地方の菩提寺に対し、本尊前と共に法要のご報告を送付し、東京教区は依頼主にアンケートを送信する

という仕組みだ。

「お寺というのは基本的に、顧客満足度調査をしないし、調査をしにくい業界なんです。

『お坊さんには、素晴らしいお声ですねと褒めなさい』と虎の巻が出回るほどだし、一般の人は僧侶に対してあまり悪いことは言いません。

遺族は特に、心理的に葬式で僧侶に注文を言いにくい環境です。

大事な人の葬式が失敗だったと認めたくないという心理が働き、良い葬儀だったと思い込むように片付けてしまうのですが、このシステムなら法要後にアンケートを取るので、私も含め僧侶の改善にもつながります。」

教区内の寺院に所属し、一定の研修を経た僧侶を派遣することができるので、ネット派遣に登録する身元が不明な僧侶よりも信頼できるという仕組みだ。

これからの活動〜東京のお寺の使命とは

客観的にみて日本は確実に人口減少するのに、寺がこれまで通りでは通用しない。そう語る成田は、システムによって解決策を見出す。

布施の金額は、そもそも故人との関係によって遺族が決めることなのに、葬儀では20〜30万からが慣例的になっている。

例えば、少子化、多死社会の中、これまで付き合いのなかった親戚の葬儀をする場合と、同居の親族の場合とでは、故人から受けた恩も、故人との関係性も、想いも異なる為、お布施の金額に柔軟性を持つ必要がある。

遺族を対象にいまの布施金額についてのアンケートを見ると「安ければいいとは思わない」との回答が一定数あったので、故人との関係値と、遺産や喪主の収入を元に、施主自身が考えて、金額を選べる仕組みを作っている。

「これまで地方から移住したお檀家さんが東京の寺院に供養を依頼すると、東京の寺院は地方の寺院の仕事を奪ってしまうのではないかという思いから、依頼を断っていました。

しかしそれでは、せっかく浄土宗で供養したい人が無宗派の人になってしまいます。」

そこで成田は、浄土宗東京教区が公認で、東京に移住した檀家のために、東京の寺院が代理で法要するシステムを開発している。

10年前、雑木林だった感応寺の敷地を墓地に改修した際、石材店から「浄土宗の墓地を探している」という声があった。

「その人たちは地方から東京に移住した浄土宗のお檀家さんだったのだが、東京の寺はその法事をただ受け取るのではなく、その遺族がお世話になった地方の菩提寺の教化により、浄土宗のお墓を探されたことを思い、菩提寺のことを尊ぶべきなんですよね。

人口が地方から東京へ流入してきている以上、東京の寺は宗派全体の視点を持つべきなのかもしれないですね。」

一般市民の心に寄り添う感応寺

青年会や全国組織の活動で忙しかった成田は、これからは感応寺にくる人のために活動していきたいとも語ってくれた。

彼は感応寺で行っている動物供養大祭や地蔵尊御開帳大祭の法話で、住職の思いを伝えていると言う。

「私も猫を飼っているのですが、ペットに対する考え方などを伝えるようにしています。2017年にペットと一緒に入れる動物供養塔を建立したのですが、うちの猫もそこに入っているから、私も一緒のお墓に入ると宣言しています。」

そうした自身の経験や思いを話すことで、施主である飼い主さんたちは「この寺院で、この住職に弔ってもらえるなら・・・」と心から安心してくださる方もいると言う。

感応寺では、形式や言葉だけでなく、自分と同じようにペットを愛する住職が寄り添ってくれる、心の通った供養で心を癒す手助けをしている。

命日などに毎年訪れる人もいるのだが、

「年に一度、故人を供養をするためにこのお寺で過ごす時間が自分にとって大切なんです。」そう穏やかに語る人も多くいる。

「故人を供養する時間を過ごすことが自分にとっても大切な時間です。悲しみを抱えて感応寺にくる人々が、帰るときには少し落ち着かれて癒されたような感じで帰ります。

感応寺ではこれからも、お檀家さんだけでなく、一般市民の心にも寄り添い続けたいと思います。」

―インタビュアーの目線―

成田さんはポジティブな考えを持つお坊さんでした。

「理想論や綺麗事も、理にかなっているならやればいい」

「檀家がゼロだから、なんでもできる」

これまでの現状を逆手にとって、良い方向に取り組みを続けていました。

常に相手の目線で取り組む成田さん。

子供がひとりで感応寺に来て金魚の供養を求めた際も、お小遣いだと言って渡してくれた小銭を「大人で言えば月給ほどの金額のお布施だ」と子供に感動していました。

自分はいま誰と向き合っているかを常に意識しているからこそ、人のために積極的になれるのだと、成田さんと会って感じました。

 

プロフィール

成田 淳教(なりた じゅんきょう)44

東京都世田谷区/浄土宗如法山正覚院感応寺住職

1975年 東京都世田谷区生まれ

1995年 佛教大学別科修了

2001年 大正大学卒業

2001年 感応寺住職晋山

浄土宗東京教区青年会会長、関東ブロック浄土宗青年会理事長、全国浄土宗青年会理事長、全日本仏教青年会副理事長を歴任。動物供養協議会理事。

感応寺 http://www.kannouji.com/