東京でゼロからのスタート。将来の不安は、今をよくすることで解決する
2014年、東京別院開所と同時に代表として就任すると、半年ほどは改装作業で忙しかった。
東京の家賃は高いので、それなら買ってしまおうということで、土地ごと購入したのだった。お寺の改装にあたっては、葬儀屋さんたちが利用したくなるよう、法事法要など多目的に使える部屋を作ったのがポイントだ。
こうした工夫をきっかけに一度ご縁をいただければ、リピートにつなげることができると考えてのことである。また、僧侶の派遣サービスにも登録し、土地勘のない中、ゼロスタートから少しずつ依頼数を増やしていった。
家族を大阪に残し、東京には単身で出てきた榎本。2年間は営業や法事、お寺のことをすべて一人でやったが、苦労だとは思わなかったという。
とにかく人と会うのが楽しかったので、ビジネスマンの交流会などによく顔を出し、周りから珍しがられたりもした。直接仕事に発展することはなかったが、人と交流する経験を積めたのはありがたいことである。
榎本の「東京でやっていける」という自信は、月30数件の葬儀に加えて、法要の依頼をいただけているという、今目の前にある事実によって支えられている。
そして、ゼロスタートからここまでこれたのは、周囲の人に恵まれていたからに他ならない。
自分で何かを成し遂げたという自負はないが、「応援してもらえるということは、もっと行けということなのだろう」と考え、今まで前に進んできた。
実際、西栄寺は単立寺院だが、それを気にせず「いいお寺さんですよ」と利用してくれる葬儀屋さんはたくさんいる。宗派にこだわることよりも、目の前の人が何を求めているか、どうすれば喜んでくれるのかを見つけ応えることが大切なのだ。
「過去の辛かったことも未来の不安なことも、目の前にある今をよくすることで、解決すると思うんです。
だから私は、世間で『お寺は潰れていく』と言われていても、不安になりません。もっと人々にとって必要な存在になれば、きちんと仕事は増えていくと実感していますからね」